ゲル・ヤケを予防する金型の最適形状とは?
Q.どのダイでも起こりうる滞留・ヤケ・ゲルを防ぐには?
コンピュプラスト社の膨大なシミュレーション実験データにより、ゲルなどの発生も予測できるようになりました。
材料は流れやすいところしか通りません。もし、太いチューブにちょろちょろとしか材料が流れなければ、流路壁面には流れない材料が滞留し、劣化してしまいます。
この劣化した材料があるタイミングで流れてしまうとゲル・異物などになる上、滞留している間に熱分解を起こせば流動場にヤケが発生してしまうのです。
■使用モジュール:
フラットダイモジュール/スパイラルダイモジュール
■目的:熱劣化しやすい樹脂でも異物無しのロングラン成形
■コスト:清掃回数の大幅削減による、ロング成形の実現。
アプローチ
〈図5〉は、あるフィルム成形品での「ゲルの通り」がわかるサンプルです。
これはあらゆる流動場において、共通の問題です。これを解決するには無駄に広い流動場を設けないことです。これをシミュレーション的には適切なせん断応力が壁面にかかる流動場と表現します。
押出機のスクリューのフライト、壁面との隙間、ブレーカープレート、マニフォールド、Tダイ、スパイラルダイの溝の深さとギャップなどすべての流動場で重要です。せん断応力はレオロジー的な計算でしか求められないため、単に流動場の寸法からでは判断できません。シミュレーションソフトによって計算する必要がでてきます。
実際の解析例の幾つかを紹介しましょう。
押出機では出口のブレーカープレートの形状及び、その先の絞り部の流路形状で劣化が発生します。下図は押出機出口の流路壁面に、適切な「せん断応力」がかからなかったために、材料が劣化したケースの解析結果「せん断応力分布図〈図6〉」「改善例〈図7〉」です。
グラフの赤線はシミュレーションソフトメーカーが最低せん断応力値としている数値で、その数値を下回った部分で確かにヤケが発生しています。
フラットダイ、Tダイ内部の流動場でもゲルが発生する事例があります。端的な例がマニフォールドのエッジ部にせん断応力がかからない場合です〈図8〉。
エッジ部に十分なせん断応力がかからないと材料が滞留し劣化します。流動解析すると圧搾部(リストリクター)に入る手前で左右に材料が広がっていく時に、端部で十分なせん断応力がかかっていない事が図からわかります。
スパイラルダイでは、スパイラル部の溝の深さとギャップの関係で、溝内の樹脂にせん断応力がかからないと材料が劣化してしまいます。3次元解析で粒子の軌道を追跡すると、せん断応力のかからない場所は左右両方向から樹脂が回り込んでいきます。このダイ〈図9〉の場合はフィルムにウエルドラインに見える線が入る不良が発生した事例です。
これらの成形不良に関しては、流動解析による検証により、いずれの場合も流動場の修正をして成形不良を解決してきました。フラットダイ、スパイラルダイの場合、修正はいずれも±1mm程度ですが、この誤差が成形を大きく左右してしまいます。これを発見してこそシミュレーションの真価が発揮されているといえるでしょう。トライアル&エラーでここに行き着くには相当な時間とコストがかかってしまいます。
押出機ではフライト内で材料が半分溶けているときの固体部を「ソリッドベッド」と呼びます。
その「ソリッドベッド」がフライトの深さの急激な変化で分離してしまい、溶融プールに未溶融で残留することがあります。〈図10〉は英ブラッドフォード大学の可視化押出機でのビデオのキャプチャ画面です。左が未溶融のソリッドベッドがきれいに白く見えている正常な圧縮部。右が急激な圧縮でソリッドベッドが破壊されている画像です。樹脂は熱伝導率が悪いため、熱だけでは浮島と化した未溶融部は完全に溶けきらず、ゲル状の異物を押し出してしまいます。また、滞留している間に分解しスクリューを焼き付かせる場合があり、これは直接せん断応力と関係はありませんが、スクリュー全体の設計に流動解析が非常に有効であることを示しています。